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komikan0108

幕間 1/2の闘争

地獄、というものがあるなら、きっとそこは途轍もない悲劇を蓄えた場所だ。黒い瞳、黒い髪、
紫外線に焼かれてもなお残る白い肌の、東洋人の少年――そんな戯言を思った彼は、いま、熱気のうだる戦場の中に立っていた。
ここは地獄だ。
確かにそう、認識していた。
だがもしも地獄というものに果てがなく、現世よりもなお苦しい業に満ちているのなら、おそらくこうして今目前に広がる光景よりも凄惨なものなのだろう。
「ばかげてる……」
これはたった一〇歳の少年にも分かるほど、馬鹿げた戦争だった。
罅が走り水の枯れ果てた大地。そのくせこの土地の右方に進めば、広大過ぎる青々とした海が嘲笑うように広がっている。
この戦争の、争いの理由が何かはよく分からない。
だが。もしもその理由が、これだけの血と肉と悲鳴とを必要とするものなら、それはきっと何か立派で、御大層なものなのだろう。
体の1/3の長さはある機関銃《マシンガン》を携え、土造りの家並みの間を駆けていた少年は、不意に足を止めた。馬鹿らしくなったからではない。そんなわがままで立ち止まることは許されない。例えこの戦争のきっかけが、どこぞの誰のわがままであったとしても。
空気が歪む熱気と、乾燥した地面。
潮風に巻き上げられる砂の中で、少年はグッと銃を握り締める。
強烈な日照りの下で、前方を走っていた真っ黒い革張りの男がこちらを咄嗟に振り返る。
「Hey,Come on!! Don’t stop!! You must going to――」
白いボロシャツを着た男が叫んでいるのは、どうやら足を休めるな、止まるな、早く走れという命令らしい。早く来いという身振り《ジェスチャー》と大体のニュアンスでもう分かる。
ここは日本ではない。
ソマリアという名前の、地獄だ。
この程度が地獄でないというなら確かにそうなのだろう。だが今のところ、少年はこれ以上悲惨な場所を知らない。毎日のように人間が死に、当たり前のように殺人が繰り返され、必然のように血が流れる。
すると。ひゅん、と空気が掠れるような気の抜ける音が一瞬聞こえて。

その。
真っ黒に日焼けした男の頭蓋に穴が空き、真っ赤な水が飛び散った。

「…………、」
疲れ切り、肩で息をしながら、少年はぐるんと眼球を回し、右の空を確認する。
どこだ。どこに狙撃手《スナイパー》が隠れている!!
どさ、と目前に倒れ込んだ死体を無視して、『身を隠す』という選択肢を選んだのはコンマ一秒の判断だった。元々家並みを走っていたわけだから隠れる場所はいくらでもある。
問題は。一体どの位置から敵の狙撃手が視ているか、だ。
「……クソッ、クソクソクソクソクソ!!」
黒い瞳の少年はグッと銃身を握り締めて、冷や汗を掻いた。
もしも狙撃手が予想以上に近い位置に身を潜めていたならば。もしも狙撃手の行動範囲が左右のスペースに余裕がある場所だったならば。
死んだ男の頭には右側に穴が開いていた。ならこの判断は合っているはずだ。正しいはずだ。
でも。
表通りで銃撃戦が開始したのか、無数に火薬の弾ける音が離れた場所から聞こえた。
(……間に合わなかった)
作戦通りならいま繰り広げられているだろう民兵と政府軍の激突に、少年と、さっきの男も参加しているはずだった。しかしもう間に合わない。いやそれで良かったのか。それとも、いまこうしてジリジリと遠くから命を追い詰められている方が、良かったのか。
どっちも馬鹿げている。
「何で……何で」
爪が食い込んでいたら血が滲み出ているほどに、少年は銃身を強く強く握り締めた。でもそれはたった一〇歳の少年の握力だ。たかが知れている。少年の身体能力など、あってもなくてもこの殺し合いには些事にすらならない。
……なら、どうして自分が、ここにいる。
「……何で生きてんだよ、馬鹿じゃないのか」
呟きながらつと少年は涙を流した。
生きるということは大したことではない。飯を食って用を足して寝ていれば誰だって生きることが可能だ。だが、『生きる』ことに意味を見出そうとするのが人間である。そして意味がない

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